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不動産市場論の二人の若手論者

〈2016年 9月 20日〉

先般、前鳥取県知事片山善博の話を聞いた。東京都が迷走しだした のには、3つの原因がある。一つは短期間で都知事がころころ変わ り機能しない事。情報公開が東京は全くないこと。都議会のチェッ ク機能が機能しないことをまくしたてていた。

最後に東京都は、東京市がなく行政が大きすぎて知事ではコントロ ールできなと指摘していた。合わせて大阪、名古屋などの行政拡大 化を否定していた。安易に行政が大きくなる過ぎることに対する警 鐘でもあった。傾聴すべき内容である。

今回の内容は不動産ビジネスのプロ向けです。先般日経の経済教室 に二人の不動産市場の有識者が登場し持論を展開した。9月13日 朝刊に清水千弘氏、9月14日朝刊に吉田二郎氏である。

若手というと語弊があるかも知れないが、今が旬の学者の二人であ る。今回はこの二人の論考を議論したい。

まず清水千弘氏である。この方は当ニュースレターでも何度も登場 している。不動産市場論でもマクロ経済を専門としている。最近の 空き家問題などでも人口動態などマクロのデータを駆使した精緻な 研究成果が多い。様々な学会でも信任の厚いポジションを築き始め ている。

この業績の背景には、日本での研究人脈が大きく影響している。日 本におけるマクロ経済に軸足を置いた研究人脈は、前日銀副総裁で あり、現東大の経済学部研究科長である西村清彦氏を頂点に脈々と 研究成果を上げている。したがって、日経などメジャーな論紙では 人口減少などマクロ的なデータから不動産市場を俯瞰する論調も多 くなっている。

しかし実際に市場で実務に携わっている立場からは、若干乖離した 論調に思われる点の多々ある。例えば今回の清水氏の新聞論旨にも、 土地の価格がDCF法により決定されるようになりファンダメンタル ズから大きくかい離した取引は見られなくなったとしている。

今正に、現在の東京のクレージーな土地取引の個々の価格を見れば、 マクロなデータでは説明つかない状況になっている。マクロなデー タから見れば、東京のファンダメンタルズが大きく成長しており、 それに対して地価動向もかい離したものではないという説明になる のかもしれない。

一般的な耐久財でも資本財でも、市場の需給関係がそのまま市場の 均衡を作る。したがってマクロなデータからもその市場均衡の説明 がなされてもおかしくない。しかし不動産は市場の需給関係が均衡 する前に、不動産業者がビジネスとして不動産の裁定取引を行う。

裁定機会は均衡していない状態であり、取引は均衡していない市場 で大量におこなれ、その裁定取引量が市場のダイナミズムとなって いる。市場が均衡するのは裁定機会がなくなる方向に向かう時であ る。その結果生まれる均衡状態でマクロ的な整合性が説明される。

少なくとも長期的なデータをもとに、不動産業者が裁定取引を行う わけではない。人口減少などの長期的データを不動産業者が日々の 取引に考慮しにくいのはこの意味である。マクロ経済の市場分析と 日々の不動産ビジネスのギャップを私どもは感じる。

市場で不動産ビジネス行う行為は、必ずしもマクロデータで説明で きるものではない。不動産ビジネスプレーヤーの動向は、やはり市 場の個々の短期的な要素に左右されやすいというのが私どもの考え である。

次の吉田二郎氏は、古くからアメリカにわたり日本でも将来を嘱望 された学者である。しかしアメリカ生活が長かったせいか日本でも 人脈から少々距離を置いた形となっている。今もアメリカに軸足を おいている。内外でも少し評価されるべきと考える。

不動産ビジネスの有識者の方ならみな知っている不動産市場の4象 限モデルがある。アメリカでは不動産のMBAの教科書となっている モデルである。4象限モデルというのは 1.賃貸の需給関係市場 2.利 回りと資本市場の関係 3.建物の建築市場 4.建物の供給量の関係の 4. つの市場の均衡状態が不動産市場の均衡をもたらすという考えであ る。

以前よりこのモデルを駆使して実際の市場を説明してこられた方で ある。今回の新聞の論旨でも、国内で正常業の生産性が上がった→ 実質金利が上昇→株価が上昇→労働者の所得増→住宅需要というよ うにアルゴリズム的に、市場のダイナミズムを様々なデータを駆使 して均衡を導く論考である。

私どもも若い時に、4象限モデルを理解しようと、吉田氏が日本に 帰ってくるとセミナーをよく聞きに行った。その好印象の影響は否 定できないが、やはりオーソドックスな感があり、新しいサプライ ズ的なダイナミズムを織り込めるのかという懸念はある。

しかし日経がこの二人を不動産市場の若手有識者として取り上げた ことがすべてを物語っている。日本の不動産市場研究の趨勢をけん 引する方々であることには間違いない。

他にも聞いて期待若手研究がたくさんいる。かつて八田達夫氏のも とで規制緩和の便益を理論化した富山大学の唐渡広志氏、ゲームの 理論を使用して住宅市場問題を説明する日大の中川雅之氏など不動 産市場を細かく分析できる方々である。

さて秋になれば、また学会の全国大会シーズンである。今年はどん な研究が登場するか期待が膨らむ。いろんな有識者の方の知見を 勉強させていただきたい。

以上

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