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英EU離脱の後話

〈2016年 8月 10日〉

前に進むと言いながら、イギリスがどうして離脱という結論を出し てしまったか?整理がつかないのが本音としてある。特にマスコミ は、未練がましいといえば怒られてしまうが、整理をつけようと必 死になっているセクターの一つではなかろうか?

ガーディアンに最近掲載された特集記事を紹介しよう。 ”Technology’s disruption of the truth”である。この特集の 結論は、デジタル化が社会の意思決定に混乱を招いたという論法で ある。しかも真実truthに対して混乱をもたらしたとまで言い切っ ている。論旨はともかく、この議論を見ると従来のマスコミ文化の 民主主義の実態と、これからのデジタル時代の民主主義のあり方を 問うているようにも思える。

従来の論評は、新聞などの紙媒体で、ある程度時間をかけて時間の 経過とともに議論を重ね何らかの専門家、有識者の見解に収束して 世論を形成していく。つまり世論形成とは社会の均衡を見出すこと でもあった。そして従来のマスコミの言い分は、結論は正義か正義 でないかであり、真であるか偽であるか?を追求していくものであ った。

しかし情報革命が進みペーパーによる時間をかけた議論からデジタ ルデバイス上での議論になると、すべての意見、見解、評価、真実、 偽に違いはなく、すべからくデジタル上の0か1でしかなく、有識 者だから、権威があるからという理由で重さが加味されることはな い。重さに差のない目新しい大量のデーターが瞬時に登場しそして 消えていく。そこでは意見の収束はなくむしろ拡散していく。した がって結果が読めない状況になる。

今回のEU離脱に至る世論形成でも、従来のペーパーによる社会世 論の均衡を見出した結果ではなく、社会のデジタル化による拡散の 結果であった。ということがマスコミとしての恨み節のようだ。

しかし、このデジタル化の社会現象は他の分野でも当てはまる理屈 でもある。大学でファイナンスを専攻した方であれば「効率的市場 仮説」をご存じだろう。株式市場で言われるランダムウォーク仮説 のほうがわかりやすいかもしれない。効率的市場仮説はユージン・ ファーマが2013年ノーベル経済学賞を受賞した理論でもある。

例えば、市場である企業が新薬を発明したとしよう。この情報が瞬 時に効率よく市場の参加者誰でも入手することができ、次の株式投 資の意思決定に織り込むことができる時、この市場は効率的な市場 である。このような効率性が強い市場では市場価格の変化がどのよ うに動くか読めない。つまり価格の推移が酔っぱらいの千鳥足のよ うなランダムウォークするという理論である。

逆に、新薬発明の情報が規制などにより、一部の人だけが入手して 他の人がすべて入手するまでに時間がかかる非効率な市場では、バ イアスが生じある程度価格の推移にトレンドが顕在化するというも のだ。地価などは不動産市場が様々な規制があり、効率性が弱く市 場地価のトレンドが比較的わかりやすいといわれている。

この市場の効率性は、アナログの情報インフラに比べて市場の情報 インフラの革新的進化、デジタル化などによって影響を受けること は明らかである。ネットで効率よく情報が配信されれば、市場で生 じる出来ごとの評価にバイアスがなくなり拡散し、動きがだれにも 読めなくなる。

SNSなどが主流のコミュニケーションの現場では、有識者だから、 権威があるからツイッターの文字スペースが他の一般人より多いと いうことはない。発言者に重たさの差がなくなり、TVタレントが原 発エネルギー問題を真といえば、瞬時に他の人が偽を唱え、次から 次への目新しいことを言って登場する人に聴衆が群がる。そうこう しているうちに次に不倫の話題がネットを席巻し、世論が集約する 時間を与えない。

瞬時に情報が駆け回っていく世界では、従来のような時間をかけ幾 度も同じ議論を繰り返して作られる世論の収束、社会の均衡は起き にくい。その結果が今回のEU離脱問題であり、つまり先が読めなか ったといわれれば納得ができる。

しかしこの先が読めなかった拡散社会現象を、テクノロジーのせい に集約しようとしているマスコミが、やはりマスコミらしいところ かもしれない。マスコミの気持ちの整理はマスコミに任すとして、 従来の民主主義の成立がこの従来型マスコミの下で成立しているこ とは事実であり、これからデジタル社会で民主主義がどう変わるの かを考える必要がある。

集約しない。均衡しない。短時間で次から次へと新しい均衡が生ま れる。拡散する。ファットティルな社会で従来ブラックスワンと呼 ばれていたものが頻繁に登場する社会で民主主義が行われなくては ならないわけだ。確かに従来から民主主義は非効率で時間がかかり 妥協の産物という側面があった。これがデジタル化社会で変わると すればどのように変わるのか?

経済活動のフィールドの原理原則は民主主義であった。民主主義が 変われば経済のデファクトスタンダード(例えばグローバルスタン ダード)も変わるのか?デファクトスタンダードが変わるから民主 主義も影響を受けるのか?非常に大きなパラダイムチェンジである。

以上

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