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主宰:川津商事株式会社
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商業不動産の新たなビジネス開拓

〈2016年 8月 5日〉

最近の世界の論調はグローバリズムVSポピュリズムという構図だ。 グローバリズムでなければすべて大衆迎合主義だという決めつけた 論調ばかりだ。右も左もすべてポピュリズムに分類されてしまう。 そしてマスコミ(有識者、論壇)が特に攻撃するのがこのポピュリ ズムである。

しかしなぜ今ポピュリズムが台頭しているのかは疑問視しない。日 本の身近の例をとれば、長年の不景気のせいかTVに登場するのが お笑いタレントばかりである。彼らを画面の中心に登場させて原発、 安保から不倫まであらゆる社会現象を言いたい放題させる。それを 大量に垂れ流してきた。

従来の有識者、政治家を軽視して彼らは間違っており、タレントの 意見に周りの出演者が、ニュースキャスターがそうだそうだと群が る劇場を24時間放送して続けている。さらにそれらがSNSでハウ リングを起こし、巨大な世論となっていく。

それは時に、非常に危険な暴力的に人の社会的人権に関する殺生与 奪権さえ行使する。これがポピュリズムとなっていく。つまりマス コミが作り出す虚像でもあるわけだ。イデオロギー的な前置きは暑 苦しいのでさっさと終えて今回は不動産のテクニカルなテーマです。

最近あまり不動産の話題を取り上げていませんでした。本当に不動 産屋かと言われないように取り上げますが、今回は少々テクニカル な話題です。商業不動産に関係ない方は近づかないでください。

ある商業・レジ複合の上場リートが今期をもって他のリートに吸収 されることになった。トップリート(8982)である。このリートは かつてのNECの本社ビルを所有している上場不動産リートである。 これだけリート株が日銀に買われてリート指数が史上最高値を更新 している中での吸収統合である。吸収先は野村不動産マスターファ ンド(3462)である。

リートには常に成長が求められている。これが市場ニーズであるが、 特に、証券アナリストからのこの成長性の要求が脅威となる。リー トの成長には保有資産の賃料収入拡大による内部成長と、外部から 成長性の高い物件を取得する外部成長とがある。特に内部成長は、 どや顔で市場を闊歩する証券アナリストの多くが評価をせず、外部 成長で大きく成長することばかり高く取り上げる。

したがってアセットマネジメントも良い物件を取得することが業績 となる。これに対してアベノミクスが過大な信用創造を日銀を通じ て行っているわけだ。

しかし市場が過熱してくると簡単に優良な物件を取得することはむ つかしい。しかも上場リートで40社以上、私募ファンドがその倍以 上ある市場にまで成長すると、その物件獲得競争は熾烈である。そ こで2000年代に商業リートとして大規模ショッピングモールを取 得し始めた。

ショッピングモールはイオン、イトーヨーカ堂の流通系のほか商業 不動産系のアウトレットモールはじめ様々な形態がある。規模にし て何十億、何百億として、都心のSクラスのオフィスビルに匹敵し、 取得するには非常にてっとりばやい物件である。この点が、商業不 動産ビジネスが流通業者に足元を見られるポイントでもあった。

通常例えばイトーヨーカ堂など優良企業が単独でテナントとなり 10年以上のリースを前提として取得する。複合テナントと違い管理 コストが少なく手間が省けてありがたいが、単独テナントでありも し撤退すると大きなリスクとなる。しかし今回ケースのように取得 した2006年代には10年先のことはその時考えよう、という不動産 にありがちな安易な考え方をアセットマネージャーがすると、結構 10年があっという間に来てしまうわけだ。

さて今回のトップリートは、1千8百億円の資産を持ちながら、年 間営業収入110億円程度である。内訳は商業オフィスが1千3百億 円、商業施設が3百億円、住居系が2百億円という内訳だ。業績の わりに配当が高くて人気のあるリートでもあった。

そして先期、保有資産で商業施設のキーテナントであるイトーヨー カ堂の東習志野店の解約通知を受け取り、その後の今回の決算で撤 退後の当該物件の不動産鑑定の結果、50億円に及ぶ減損を計上し、 これきっかけとは誰も言っていないが野村不動産系の商業ファンド に吸収される。

東習志野店は2006年に89億円で購入、年間賃料3億円であった。 実際は取得後直に撤退をちらつかされて賃料を35%も大幅ダウン をしているいわくつきの案件であった。そしてテナント撤退後の資 産評価が20億円である。つまり50億円の減損ではあるが、取得時 から比べると60−70億円に迫る損となる。そして決算短信では次 のテナントの内覧がすでにあるとだけ明記してある。

今回決算では、減損による大きな赤字にもかかわらず大きな配当を 確保した。それは吸収されることを前提に内部留保金をすべて取り 崩して配当原資とした。ここでも留保金が経営者の経営の失敗のし りぬぐいとして都合のよいポケットマネー化したのである。

急成長しているリート産業がやはり馬脚を現した格好となっている。 トップリートを吸収する野村不動産マスターファンド7000億円の 規模であるが、再生価格で大きな物件取得し一気に9000億円の規 模になり外部性成長を実現し、高い評価を獲得することになる。

一方、イトーヨーカ堂は2020年までの毎年約10店舗ずつ、40店舗 の撤退をすでに表明している。この影響は上記トップリートだけで なく、森トラスト総合リートが保有する浦安のイトーヨーカ堂が解 約通知を出しており、森トラスト総合リートの次回の決算書でどの ように反映されるか懸念される。

バイアスなしに考えれば、イトーヨーカ堂が撤退した後にイオンが 入るわけない。街中でアウトレットはあり得ない。専門店の複合店 もすでに近隣で出店しており、これだけ大きな物件が簡単に決まる わけがない。

これはアメリカですでに見られた現象である(当ニュースレターで も取り上げた)。メガ化したショッピングモールの跡地利用がなかな か進まない中で、アメリカでは用途の違うコミュニティー施設、福 祉施設、その中でも注目されているのがメガチャーチである。

メガチャーチとは新興宗教団体の教会である。日本ではありえない。 かといって他の教育施設、病院施設、福祉施設はお役所の許認可制 度から規制があり流用は絶対できないのが日本のおきまりである。

さてこれから始まる大規模商業施設の廃店、これに対して商業不動 産ビジネスがどのようなソリューションを提示できるか?再生ビジ ネスは今後の日本の大きなテーマになる。これを間違え、政策誘導 でリート株を公的資金で購入してきたところへ破たんが出たりする と、大変な市場攪乱要因ともなりかねない。アベノミクスがそんな へまはしないはずだが、市場はじっと見守っている。

危機はチャンスでもある。岩盤規制の緩和で物件の流用、再ビジネ スの育成などである。

以上

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