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主宰:川津商事株式会社
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都市の利害関係者

〈2016年 7月 15日〉

今回のイギリスのEU離脱問題はいろんな問題を提起してくれる。一 番感じるのがロンドンの最も力を持った利害関係者(パワーステー クホルダー)は誰で、彼らがどう考えるのかだ。ロンドン土地価格 がぶれだしている。ロンドンの住宅市場は金融都市シティーの業績 に連動した世界トップクラスの投資マネーが流入する市場であり、 不動産投資市場としてNYに並んでトップクラスの市場である。

と言うことは、本来の住民以外に、世界中の投資家が非常に強い影 響力を持つ利害関係者として存在していることを意味している。イ ギリスの経済政策がロンドン一極集中により、地方の産業資本、人 的資本、ビジネス機会を吸収してそれをロンドンの金融産業インフ ラに転換し、金融立国として高い収益を実現しそれを地方に再配分 する政策をとっているのなら、様々な地元のビジネスチャンスを犠 牲して一極集中に協力した地方の再配分受領権利者も利害関係者と して名を連ねる。ロンドンへの経済的投資家に含まれる。

細かいことを言えば、ロンドンという都市のブランドの将来性を評 価して、ロンドンの魅力を紹介する本を制作して、さらにロンドン の価値が上がるように貢献し、その貢献に対する報酬で利益を上げ てきたビジネスプレーヤも利害関係者として名をつらねる。利害関 係者としては住民、行政管理者、政治施政者、経済的取引関係者、 経済的投資家があげられる。

これらすべての利害関係者はロンドンの価値が上がることを皆標榜 するはずである。

言葉を変えて、企業における利害関係者の役割を考えてみよう。最 近、ものをいうエクイティホルダー(株主)が増えてきている。企 業の利害関係者は株主だけではない。デットホルダー(銀行,社債権 者)、アセットホルダー(取引先、従業員、地域コミュニティー)が いる。これらすべて総称して利害関係者(ステークホルダー)とな る。

かつて企業は誰のものか?という不毛の議論があった。すべてのス テークホルダーが協力して企業の価値早々に貢献することによって はじめて企業価値の最大化が実現する。これが最近の大学のファイ ナンスで教える企業価値の最大化である。

その為に利害関係者はそれぞれの職能を通じて企業に貢献する。ア セットホルダーはそれぞれ担当資産のオペレーション、マネジメン トで貢献し、デットフォルダーはレバレッジ機能を提供し、エクイ ティーホルダーはリスクテークで貢献する。それぞれの職能で企業 に貢献することにより企業の価値を上げ、その成果である利益を配 分というかたちで報酬をもらうことになる。

いま企業では、企業内留保金などその利益の配分が問題視されるこ とがある。経営者(アセットホルダー)が自分のポケットマネーの ように内部留保金を保持したがる。彼らは将来の何か危機のために と説明する。エクイティホルダーはさらに大きな利益を生む投資に 回すか、そうでなければ配当に回すかを要求する。

デットホルダーもクレジットエンハンスのために無駄な投資さけ内 部留保を容認する。従業員はベースアップを要求する。内部留保が 過剰になりだすと一斉に企業はM&Aを行い始める。M&Aが盛んにな る状況がいわゆるバブルの予兆となる。企業ではこのようなステー クホルダー間の配分戦略そのものが経営戦略となる。都市という器 の利害関係者も基本的には会社という器の利害関係者と同じである。

ロンドンの利害関係者はロンドンの都市の価値が上がることを望み、 日常の生産・消費活動を行う。そして価値が下がることは望まない どころか阻止をする。イギリスのEU離脱投票においてもロンドン市 及びその周辺都市、あるいはイギリス経済の要所となるマンチャス ターなどは離脱反対を示した。EUに対する資源産業利権の関係が強 いスコットランドもロンドンよりEUに利害関係者として離脱に反 対した。

しかし都市の歴史とはそもそも、飢饉、戦争、経済破綻、衰退、隆 盛、侵略、吸収合併、独立の繰り返しであった。必ずしも安定した 歴史ではない。ロンドン、NY、パリ、北京、東京、シンガポール、 デトロイト等等世界中の大都市どれをとっても大きな歴史の荒波を 乗り越えてきており、今後も様々なリスクに曝されている。都市の 歴史は国の歴史、人の歴史よりはるかに短い。大きな利益を上げる 都市ほどリスクも高くその荒波は高くなる。

世界の大都市として君臨する都市は、それなりに利害関係者が職能 を通じて貢献し、大きなリスクを取り投資を行い都市の価値創造に 貢献したはずである。貢献せず、ただ乗りする輩、既得権益を形成 しそれに胡坐をかき果敢にチャレンジしない非効率な利害関係者が 多い都市が発展するはずがない。保身を図る高齢者がパワーステー クホルダーになる都市は成長しない。

そして、イギリスがロンドンを強大な帝都化して国全体をけん引す る帝都型の国家であるのと同様、日本も東京を巨大な帝都化して地 方をけん引する形態をとっている。今回、本来ロンドンの利害関係 者である地方が、ロンドンの価値を棄損する選択を取ったことはけ して他山の石ではない。

東京一極集中は東京の価値を高める。東京に資産を保有する利害関 係者は東京の地価が下がるようなことは拒絶する。集中をやめると か、再配分を増やすことはしたくない。利益は内部留保して自分た ちの自由にしたい。有効な内部留保の使い方を要求する利害関係者 とぶつかる。しかし今回学習したことは、コントロールの取れない 安易な国民投票は絶対行わない。その一方で地方の生活は限界とな る。

名古屋を考えても、手本になる都市はほかにいくらでもある。産業 構造としては自動車産業都市デトロイトである。イギリスで言えば ロンドンとマンチェスターの中間にある大都市バーミンガムも例に なる。重要なことは都市の利害関係者の中でパワーを持った利害関 係者は誰で、彼らが何を考えているかである。

以上

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