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主宰:川津商事株式会社
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都市の魅力「官能都市」とは

〈2016年 7月 10日〉

地方創生会議の中心的人物であった増田氏が東京都知事に立候補す るという。地方創生はある意味アンチ東京一極集中である。東京一 極集中を止めると東京の資産の価値は劣化する可能性がある。もち ろん担ぐ政党も都市経済の重要なステークホルダーである。しかし 有権者は東京の資産価値を保有するステークホルダーそのものであ る。どのような利害の調整がなされるのであろうか?ステークホル ダーとは利害関係者である。

日本不動産学会誌にユニークな書評が登場した。学会というところ は理論的でない表現、言葉を排除したがる。筆者も他の学会で何度 も門前払いを食らった経験がある。しかし理論的という実態は、何 らかのデータを正しい統計処理してあれば、それが稚拙なアンケー トデータであっても理論的論証となる。そして理論的であれば実態 にコミットメントしなくても認められてしまうことがある。その結 果がガラパゴ化である。

さすがは多様性を標榜する日本不動産学会というべきか、「官能都市」 と言う極めて非理論的なテーマで都市を評価した調査報告を野心的 に紹介している。
http://www.homes.co.jp/souken/report/201509/

都市を評価する従来の方法は、例えば住みたくなる街ランキングな どで使われる「安心」「利便性」「快適度」「裕福度」「居住水準」を 基準として評価される。その結果の事例として東洋経済の住みよさ ランキングでは千葉の印西、愛知の長久手、石川能美がトップ3と している。地方でありながら富山などもよく注目されている。今回 の「官能都市」評価では、以下のようなカテゴリーで調査を行って いる。仔細は、調査報告書を見ていただきたい。

1.「共同体に帰属している」お寺や神社お参りをした、なじみの飲 み屋で盛り上がった、買い物で他の客と会話した。

2.「匿名性がある」カフェ・バーで1人を楽しんだ。平日昼間お酒 を飲んだ。不倫デートをした。夜羽目を外した。

3.「ロマンスがある」デートした。ナンパされた。路上チューした。

4.「機会がある」イベント・パーティー・コンサート・セミナー・ クラブ・サークルに参加した。

5.「食文化」庶民的食材、地元食材、地酒、地ビールが楽しめれる。 地元が誇るミシュランの星を持つレストランがある。

6.「街を感じる」街の風景が楽しめれる。街の喧騒に活気が感じら れる。商店街のにおいがある。

7.「自然を感じる」木陰がある。公園水辺を楽しむ。青い空夕焼け を楽しむ。深呼吸した。

8.「歩ける」通りで遊ぶ子供の声がする。体を動かし汗をかいた。 家族と手をつないで歩いた。道草をした。

保育園、子供が遊ぶ公園の設置を拒絶する住民が多いエリアはこの 指標では魅力のない町となるだろうと言ったところか。従来の住み たくなる都市ではある意味牧歌的な地方都市が高く評価されるが、 今回の基準で評価すると、官能都市とはほとんどが東京大都市圏内 あるいは大阪都心内のエリアとなる。

かつて都市のマネジメントに「サードプレイス」という概念が登場 した。これは都市のコミュニティーを考えるうえで、家庭、職場の 次ぐ第三のコミュニティーが人には必要であり、そのようなコミュ ニティーを育む都市が評価高いとされてきた。

そしてサードプレイス概念は具体的な店員との会話、御客同士の会 話を通して交流を生むカフェというビジネスモデルに、都市の市場ニ ーズを超えた社会的ニーズ認め、市場を大きく成長させた。サード プレイスという概念は必ずしも学術理論として進化したのではなく 実務から派生した概念であり、それが都市の成長に貢献した例であ る。

スタバに入ると、店員が盛んに話しかけてくる。これはサードプレ イスを意識したビジネスモデルだ。しかしチェーン店は店員が地域 に関係の無いアルバイトで双方向の会話はあまり成り立たない。従 来の名古屋の喫茶店はまさにコミュニティーの場そのものであった。 あえて新しく作る必要がなかったのが名古屋だともいえる。しかし その名古屋の喫茶店文化も高齢化とともに劣化しつつある。若い人 はスタバにいってしまう。

学術の領域にこだわらず、官能都市という非学術的な実務から派生 した概念が新しい都市の進化に貢献するビジネスモデルへの可能性 を不動産学会も応援しているわけだ。結論から言えば官能都市とは、 本来の都市の魅力を従来の学術用語で評価するのではなく、タブー を恐れず人間的な言葉で評価した欲望的魅力である。

そして市場が今後要求するニーズの答えでもある。冒頭の学者が描 く地方創生会議などでは、地方の食材を生かしたグルメを発展させ ようまでは同じだが、その一方でミシュランと言いう市場的魅惑要 求までは言及できないだろう。公序良俗にとらわれず本質的な市場 ニーズに対応した概念評価といえよう。ただし今回の調査もランキ ング評価であり、1位以外すべて敗者で、2位も敗者のトップでし かない見方をすると排他的な評価でしかなくなってしまう。

みなさんの目線で報告書を確認していただきたいが、端緒な例とし て名古屋はどのカテゴリーにも50位以内に全く出てこない。つま りいわゆる都市さの魅力がないと評価されてしまっている。これは そもそも名古屋のような「ゆるキャラ都市」、中途半端な地方大都 市(敗者グループの優等生)が評価されないモデルリスクともいえ るが、他のエリアが的を射てるのであれば、名古屋も真摯にこの結 果を受け入れる必要がある。

このような結果を踏まえて考えると、従来名古屋は東京を10とす るとその1-2割の市場規模でしかないと思われていた。つまり東京 ほど規模は大きくないが、それなりに1−2割最低限あると思いた いところだが、今後評価されるべきものは実際は10:2ではなく 10:0なのかもしれない。少しでも「有る」と「ゼロ」との格差は まったく違う。つまり東京、大阪で感じられる都市の第三の魅力は 実はないのかもしれないということだ。

よくリニアができると名古屋が東京に吸収されるという議論がある が、私共は何度も言い続けてきたがどちらが吸収するの?という議 論である。もし名古屋が本来持つべき都市としての魅力を近隣の東 京で補完し、名古屋も新たに魅力を自前で作るより東京の都市の魅 力を流用したほうが効率的と市場が志向し、名古屋らしい魅力の醸 成に努力してこなかったのなら、リニアにより逆吸収をもっと早め ないととことん沈んでしまうところまで来ているのかもしれない。

名古屋こそもっとリニアの早期実現を望むべきところである。それが 名古屋のステークホルダーの利益だろう。東京には何でもある。しか し名古屋には東京ほどの規模はないかもしれないが最低限はある。こ れは間違いで、特に今後求められる新しい都市の魅力は何もしなけれ ば名古屋で育ちにくいという現実を受け入れる必要があるわけだ。

食文化を取ってみても名古屋飯はあっても名古屋が世界に誇れるミ シュラン評価のレストランはない。福岡にはミシュランが来ている が名古屋には来ない。全国キャラバン以外魅力あるコンサートはほ とんだ開催されなくなってしまった。美術展も来ない。魅力あるサ ークル、イベント、参加型のイベントは十分にあるだろうか?都市 型の自然を感じる新しい施設もない。いま名古屋で最も関心が高く 熱いエリア名古屋駅前エリアは歩いて楽しいところだろうか?

リニアで40分で行けるなら、名古屋で期待するより東京に参加した 方が効率がいい。横浜アリーナで開催されるサザンの年越しライブ に参加して初めてサザンのファンと言える。名古屋の若者は普通に 泊りがけで横浜に出向いているのが現実である。

名古屋のマスコミが言う「特別な金持ちだけが東京へ買い物に出か ける」のではない。名古屋の都市の魅力の現状を直視するべきだろ う。官能都市概念が今後どのようなビジネスモデルを生みどれほど 都市の進化に貢献するかはまだ分からないが、不倫、路チューなど に蓋をしてみないふりをしていると、ますます名古屋が埋没すること になりかねない。

さてこのような評価が出てきて、名古屋の都市のステークホルダー は何を考えなくてはならないだろうか?まず、会社であれば業績を 改善するために会社のCEOを入れ替える。都市のマネージャーの 入れ替えである。次にもっと潤沢にリスクマネーを供給し投資を 拡大する。最後に資産を売却して逃げる・・・である。ロンドンは 今都市のステークホルダー間の戦いが始まろうとしている。

次回都市のステークホルダーについて考えてみる。 P.S 不倫はいけません。




以上

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