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主宰:川津商事株式会社
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名古屋駅前の新しい顔イセタンハウス

〈2016年 2月 1日〉

いよいよ名古屋に初めて直接伊勢丹が手掛けるビジネスモデルが入っ てくる。3月に名古屋駅前の大名古屋ビルヂングのキーテナントと してオープンするイセタンハウスである。成功して名古屋駅がます ます盛り上がることを望むばかりであるが、大阪梅田駅前のように 1年足らずで撤退した例もある。名古屋の今後のマーケティングに も影響が出る試金石ともいえるわけだ。

先ごろテナント陣容が公表された。
https://www.wwdjapan.com/fashion/2016/01/22/00019393.html
テナントミックスの評価は流通業の専門家に任すとして、都市立地 戦略を概観したい。まず店舗形式は路面店である。ミッドランド名 古屋と同じように1階正面路面部分をキーとしている。特に女性ブ ランドが配置してあるようだ。

全国の主要な駅前エリアが、近年路面の回遊戦略ではなくデッキに よる階層別の回遊性を志向している中で、さすがは道路が広い名古 屋である。前面に公開エリアが設けられており、このエリアに花を 咲かせるような贅沢なファサードとなっている。背後に広がる名駅 3丁目、2丁目界隈の回遊性の起点となることは間違いない。

ただしこの界隈はビジネス街でもある。ビジネス街のファサードと して有名なのは、東京丸の内仲通商店街である。東京の三菱村ビジ ネス街の中に、おしゃれなブランドショップのファサードを作りこ のエリアの回遊性を生み出そうとしたものだ。

しかしこのエリアの主要な人はビジネスパースンである。彼らが昼 から仕事をさぼり店の中をうろうろすることはない。就業後も仲間 内に見つかるような徘徊は差し控える。つまり回遊する人たちでは ない。仲通りのお客は外部からの観光客である。

したがって大名古屋ビルヂングもオフィス街としてみるのであれば、 ユニモールがそうであるように買回り品を帰宅時間にゲットするだ けでしかなくなる。そうではなく鉄道駅名古屋駅の背後に控える愛 知県三河、三重県、岐阜県に至る広大な商圏から目的を持った購買 層をターゲットするのであればそれなりの店舗陣容となる。

モンクレール、マルニ、A.ワンといったテナント陣容は、後者を意 味するものと考えられる。もちろん地階は地下鉄駅隣接から考えて 前者のテナント戦略のようだ。

その結果、名古屋駅前側から東に見る駅前エリアの様子は、ミッド ランドのヴィトン、カルチェからプラダショップさらに桜通を挟ん でイセタンハウスと華やかな路面店が立地することになる。これら の建物のおしゃれなファサードは名古屋駅エリアの新しい顔となり、 路面店に回遊性を醸し出す魅力となろう。

ファサードとは、簡単に言えばウインドウショッピングができる建 物の壁である。回遊性の元祖である東京銀座の「銀ブラ」は、銀座 をウインドウショッピングするのに最適な環境をファサードと柳で 作り上げたものである。

しかし非常に残念なことに、名古屋駅前エリアの路面の回遊性は、 桜通で分断されてしまっている。桜通は南北に横断する構造になっ ていない。どうしてもユニモールなどの地下街を横断しないと3丁 目と4丁目の回遊性の交流はない。回遊性の専門的な立場から言う と、回遊性にとって階段はブレーキとなるバリアである。

例えば、今名古屋駅前の噴水オブジェの道路上、JR名古屋駅の正面 から大名古屋ビルヂング、プラダショップまで桜通と広井町線道路 をまたぐ道路上に、渋谷駅前のようなクロス横断信号域を設けると、 名駅2丁目、3丁目、4丁目の回遊自由度が高まり、名古屋駅前エ リアの路面の回遊性の生産性を高めることができよう。

回遊性戦略には大きく二つの戦略がある。一つは囲い込みである。 例えばペデストリアンデッキ、ユニモールなどの地下街により来訪 者を完全に意図する方向に誘導して、そこから回離させない方法で ある。

もう一つはまったくオープンにして、何処からでもアクセスできる ように、アクセサビリティを高める施設構造にすることである。前 者の囲い込みは百貨店など大型商業施設に用いられる手法である。 後者は鉄道駅などに用いられる手法である。

鉄道駅はその地域のあらゆる人と地の利便性を高めることによって 利用回数を獲得し、その存在価値が生まれる。そのためには多様な アクセサビリティーが必要になる。同時に、駅につながる路面エリ アの多様なアクセサビリティーは、その路面エリアの回遊性の生産 性を高める。

このように考えると都心の回遊性戦略は百貨店と駅が戦略上衝突す ることになる。実際、自分のところへ取り込み囲い込みたい大型百 貨店の回遊戦略と、すべてのエリアへのアクセスを担保したい駅の 回遊性戦略は、利益が反するはずである。。

大阪の梅田では、阪急電車の梅田駅が、改札出口からそのまま4基 −5基のエスカレーター、3基の歩く歩道を駆使して関西最強の阪 急百貨店梅田本店に来訪者を誘導している。回遊性の囲い込みであ る。途中外部へのアクセスは階段などを設置してバリアを形成して いる。その囲い込み戦略は見事なものである。

しかし一方で、阪急百貨店方面でないところには、路面の回遊性を 損なわないように歩行者専用のクロス横断歩道をいくつも確保して ある。駅周辺の飲食店街、物販専門店などの路面店に対する配慮が 明確になっている。鉄道駅からすれば、いくらグループ企業といえ ども百貨店への客は利用者の一部でしかないからである。

名古屋駅に話を戻そう。名古屋駅の前のもっとも有力なキーマンは 誰か?それは鉄道事業者であろう。栄エリアのキーマンは商業事業 者百貨店である。この点が栄と名古屋駅前エリアの大きな違いであ る。

さて名古屋駅エリアの新しい顔となるべくイセタンハウスにはぜひ 成功してもらいたい。そのためにはもう少し駅前エリアの都市構造 上の進化が求められるのかもしれない。マスコミはごろのいい「迷 駅」と称する名鉄、近鉄、JRの乗り継ぎの不便さばかりを取り上げ る傾向にあるが、それらはすべて名古屋駅前エリアを通過する人た ちの利便性である。

実際に名古屋駅前エリアを利用する人たち、イセタンハウスの顧客 たちの利便性を高めるためには、駅前エリアの回遊性の生産性を高 めるための都市構造の進化が求められているわけだ。これはイセタ ンハウスだけの問題ではない。名駅三丁目、四丁目界隈の路面店の 回遊性にも影響がある。

今後名古屋駅前エリアのはいくつもの新しい回遊性が登場する予定 である。リニア駅関連の回遊性、名鉄近鉄再開発の回遊性、JPタワ ー、JRゲートタワー、大名古屋ビルヂングといった大規模商業施設 の回遊性等等である。これらの回遊性ネットワークの生産性を高め る都市構造の進化は、迷駅改善よりはるかに大きな経済効果を当該 地にもたらすはずだ。

以上

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