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主宰:川津商事株式会社
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不動産価格崩壊、空き家問題、地方衰退の誤解

〈2015年 10月 1日〉

まず最初に日本の不動産投資文化とアメリカの不動産投資文化の決 定的な違いを理解していただきたい。これは拙著「いまさら誰にも 聞けないプロのための不動産投資利回り(2014)」で紹介したもので ある。

日本の不動産投資市場では、1990年のバブル経済崩壊以降20年あまり概ね不動産収益率(キ ャップレート)が5%弱で推移してきた。これに対して資金調達コ スト(借り入れ金利)が概ね2%前後で推移してきた。と言う事は 何もしなくても2-3%のイールドが得られることになる。

従って賢い日本人はプロパティマネジメント、アセットマネジメント等どん なカタカナ言葉を使おうが、コストを払ってまでしてキャッシュを成長させる必要はなかった。

一方アメリカの不動産投資市場では、やはり不動産収益率が5%強 で推移しているが資金調達コストが5%前後である。つまり何もし なければイールドはないことになる。アメリカでは不動産投資と言 えば必ずキャッシュの成長が大前提となる。しかもこのキャッシュ の成長は、不動産資産を最後に売却するための価値を上げるものでな くてはならない。

売却の価値は資産の収益を元に評価される。1億円で購入した投資 資産を1億円以上で売る事がアメリカの不動産投資の目的となる。 つまり如何に低いターミナルキャップレート(TCR)を使えるかが投 資技術の目的になる。TCRとは期間終了時の収益率を意味するが、 ここまで来ると一般の方にはあまり理解できない不動産用語になっ てくる。しかし日本では不動産ビジネスの精通者、或いは不動産研 究の学者ですらTCRを使いこなせれる人は見かけない。それだけ日 本では需要が無いビジネスツールである

少々理屈ぽい話になってしまったが、アメリカではとにかく住宅だ ろうが、商業ビルだろうが購入した不動産資産を売る時には、必ず 高く売ろうと努力する。そのために一般人であっても家を補修して、 多額の資金をかけてリフォームを行い常に価値を高める努力をする。 アメリカの家族の典型的なお父さんの趣味はリフォームであり、お 父さんの宝物はガレージを占拠する様々な工具である。そのような アメリカの家族の風景は映画等でも見ることができる。

またアメリカではDIYと呼ばれる工具専門のホームセンターがビジ ネスとして大きな市場を持っている。日本ではホームセンターと言 えばプロの建築業者の材料仕入れが対象となってしまっている。ア メリカでは住宅始め不動産資産を高く売ろうとする事は、高 く買う人がいるわけだ。つまり資産価値が下がらない常に価値を生 み続ける市場構造になっているわけだ。

最近、空き家問題の論評が過熱してきている。雨の後の竹やぶの如 く、にわか空き家に関する有識者が市場に登場してきている。彼ら はみなこぞって、少子高齢化人口減少により住宅価格が崩壊し、中 古流通市場が低迷し、空き家が増え、地方が限界を超えて衰退して 消滅すると連呼している。けして人口減少と住宅価格の関係の分析 が間違っているわけではない。しかしそれだけで市場を説明できるわけ ではない。

では改めて問うが、アメリカは少子高齢化問題が無いから住宅価格 が下がらず、空き家が大量に出ないのか?

アメリカは確かに移民を 大量に受け入れて人口が減っていない。しかし人口が増えている移 民に大量に住宅を買わせるとどうなるか?それがサブプライム住宅 ローンバブルであった。大きな社会問題を引き起こしてしまった。

アメリカで日本の様な資産価値の収縮、空き家問題が出ないのは、 不動産資産の価値が下がらないよう努力をする投資家、そしてそのニー ズに応える様々なビジネスモデルの開発、それを支える市場制度が有効に機能する資産 市場があるからである。アメリカと言えども、この様な効率的な市 場が機能しないと資産価格は破壊してしまう。

典型的な例が財政破綻したデトロイト市である。以前英字新聞でデ トロイトの「一軒家の価格が1ドル」と言う記事が有った。全米ナ ンバーワンの貧困、格差、移民率となるともうそこでは市場は機能 しなくなる。今の日本の特に地方の住宅流通市場はまさにこのデトロ イト同様、市場が機能しない状態である。

日本の住宅市場の本質的な問題は、人口減少による市場の低 迷だけではなく、価値を生む効率的な市場が成立していないところにな る。これに対して人口推移データで住宅市場を説明する事しかできない状 況こそが問題である。

そしてその背景には大学などで実効性 ある不動産投資専門のコースが無いこと。市場の効率性を支える有 識者が評価されないこと。これも何度も言うことであるがアメリカ の著名なMBAでは必ず不動産投資専門のコースがある。日本でファイナンスと言えば証券ファイナンスが主流である。それでも証券ファイナンスの日本独自のビジネスモデルは聞いたことはない。

これも何度も紹介しているが、日本大学の中川雅之教授の発言が大 変印象的である。「日本の住宅市場はナッシュの均衡に陥っている」。 つまり何もしなことが持ち家の最適な利益となっている市場である。 家のお父さんが金槌を持ったことが無い、従って修繕もしない、リ フォームもしない、耐震補強もしない、再投資をもしない結果、住 宅の価値はなくなり、引き取り手が無くなり空き家が増え、都市が 消滅するのである。

日本では収益価格で均衡する市場がようやく育ち始めた。価値を生 む市場はその価値に魅力を感じて人が参入する事を意味する。例え 全体の人口が減っても、価値を生む市場そして都市は消滅しない。人口が減らなくても価値を生まない市場は消滅する。

以上  

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