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主宰:川津商事株式会社
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商業不動産論

〈2014年 4月25日〉

先般友人の有識者から課題をいただいた。この友人の書いた学術論 文に対する返答である。課題は百貨店等の流通小売業の業務と商業 不動産の業務の垣根がなくなりつつある中で、どのような方向性を 作り出さなくてはならないかということである。

これはえらいことである。不動産業者は心してかからなくてはなら ない。百貨店業界の再来襲である。あえて再来襲というのは過去に もあったと認識するからである。

日本の1980年代後半のバブル経済は、見方によれば百貨店デベロッ パーによって作られたと言っても過言ではない。そごう百貨店の水 島社長は地方都市に百貨店を作りそれにより地価を上げて、その含 み益で更に別の百貨店を地方に開発し、更に含み益を得て開発し続 ける錬金術を成し遂げた。このビジネスモデルを他の多くがまねを したのあでる。

このそごう百貨店に不動産開発費を融資し続けたのが日本興業銀行 などの特殊銀行、長期信用銀行である。長期信用銀行は預金者の保 護なしに融資を拡大できたのである。紆余曲折あってバブルは終わ った。

一つの事例をあげよう。これは中傷ではなく商業立地論の専門家で あれば理解できる事例であるはずである。栄にある三越伊勢丹系列 のラシックと名古屋駅前にある不動産会社系列のミッドランド名古 屋とどちらが来場者数が高いか?これは収益力とは別の顧客の期待 満足度の比較である。

建築構造物としてみると、栄のラシックは大津通りと久屋大通りに 回遊性を生み出し、栄の機能を高め代表する商業施設と評価される だろう。片やミッドランドは名古屋駅前エリアの象徴であり親会社 のブランド力も兼ね備え誰しもが認める高い評価を得ている。どち らも構造的に贅沢な作りをしており甲乙つけがたい。

しかし商業的にどちらが成功であるかと言えばやはりラシックであ ろう。施設内の客の回遊量が違う。ラシックは非常に買い物がしや すい。回遊しやすいのである。ミッドランドの方がラシックより上 質なテナントが入りその知名度、個々の店舗のブランド力は上であ る。にもかかわらずどうしてか?

テナント政策には様々なノウハウが必要とされる。ブランド力・質 の高い低いではなく、重要なのは買い回りやすさである。例えばA とうブティックにはBというショップと相性が良く、Aの商品を見 た客はほとんどBのショップを見たがると言う相性である。このテ ナント戦略ができていると、買い物客は非常に違和感なくスムーズ に回遊ができ満足を得る。

このような場合、通常AもBもそれをよく理解しており、出店時に おいて抱き合わせを希望する。逆に相性の悪いテナントもある。互 いに離反しあうテナントCとDが近くにあると互いにけん制し合い マイナスの効果を生む。それもテナント側と大家側が十分に理解し あえる状況がノウハウである。このノウハウはやはり商業経験値の 高い百貨店系が何と言っても強い。

栄にはまだまだ名古屋駅前エリアが及ばない可能性がある。このよ うなノウハウに関係を無視してテナント料の高いブランドショップ ばかり並べると、それは商業施設のブランド力にはなっても顧客の 満足は得られない。

デベロッパーとして上質なマネジメント力を誇る三菱地所、三井不 動産等もやはりこのようなノウハウを非常に大事にしているが、 日々刻々を激変する市場の精通者である商業者にはかなわない。

栄のラシックは三越伊勢丹の百貨店部門の別部隊である東京にある 不動産専門の部署が運営している。百貨店は本来小売りというビジ ネスモデルで利益を上げてきたのであるが、違うシステムである商 業不動産業というビジネスモデルに転換しだしたのである。これは イオン等にも見られる現象である。イオンを核としたショッピング モールではなくイオンモールのみの店舗開発が日本全国に広がりつ つある。

さてそこでわれわれ商業不動産はどうしたらいいか?もし不動産業 者が開発する商業施設と、百貨店業者が開発する商業施設とにおい て収益が違うとして銀行の担保価値に差が出たらどうしますか?こ れが百貨店業界の再来襲の意味である。

商業不動産の収益構造が変わってきているのである。それに対して 新しいビジネスモデルが要求されているのである。単なる場所貸し、 物販による利益構造では通じないわけだ。

以上

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