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主宰:川津商事株式会社
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2010年の総括「ロングテール・インパクト」「ピークアウト」「安全保障」

〈2010年末特別号〉

今年も年末を迎えました。今年は皆様にとってどんな年であったで しょうか?今年お届けしたニュースレターを振り返ってみると、不 況の状況をどのように認識するかといったテーマが多くあった感じ がします。

年後半からリニア中央新幹線の話題、名古屋駅前のJR東海の新し いビルプロジェクト、日本郵政のビル再開発、そして三菱地所のビ ル再開発等の話題が小出しに市場を刺激してきたような状況であっ たと考えます。

*ロングテール・インパクト そんな中で一番多く登場した言葉がやはり「ロングテール・インパ クト」であった。ロングテール・インパクトとは簡単に言うと市場 の商品構造、消費者構造のフラット化現象である。

パレートの法則と呼ばれる従来の黄金ビジネスモデルから、ロング テール構造の市場にニーズのシフトが起きたのである。従来市場で は、売れ筋商品と呼ばれる市場の2割の商品あるいは消費者で、市 場全体の売り上げの8割を実現していた。

この2割の売れ筋商品、大口顧客から、少ないニーズであるが非常 にすそ野の広い商品、消費者に市場のウエイトがシフトしたのであ る。これを実現したのが、ネットによる消費行動の変化である。ネ ットに代表されるIT技術は、市場の末端にある小さいニーズの商 品情報へのアクセスを可能にさせた。

ネットと一言で言っても、そのビジネスモデルは非常に深化してい る。twitterからブログに誘い込み、口コミを通してオンラ インショップへ買い気を誘導する。市場構造が非常に深化し、けし て一時的なものではない。

従来であれば、秋葉原でしかビジネスとして成り立たなかったオタ クナ商品が、インターネットにより情報が発信された事により、非 常に大きな市場に成長したのである。百貨店等が提供するブランド をまとったマスプロダクツから、オタクナ商品を扱う市場へシフト が起きたのである。

ネットのインパクトは、消費者行動も大きく変えた。マスメディア が垂れ流す商品情報に対しそれほど興味をしめさなくなり、独自に 様々な商品の「評価」を探しだした。多様な評価のないものは市場 の土俵に上がれず、評価の悪いものは市場から退場させられる状況 になっていった。

最近、日本のマスコミ特にTVコマーシャル市場が業績を落とし始 めた。これを不景気とみるか市場構造の変化と見るかで、その後の 戦略が全く違ってくるはずだ。

それまで、見向きもされなかった小さな市場の商品が、短時間でい きなりメジャー商品になる現象があちらこちらで登場した。同時に その一方で市場のニーズシフトについていけないオールドビジネス モデルが市場を失い衰退しつつある。

現在、日本をはじめとする先進諸国特に都市部の市場で起きている このような大きな市場シフトが、マクロ経済の「需要不足」という 形で、西側先進諸国全般に蔓延しているデフレ不況の要因の一つと なっている。これに対して、今年のノーベル経済学賞の対象となっ たテーマが非常に印象的である。

それが「サーチ理論」である。市場にはサーチコストがあり、特に ミスマッチがある市場ではサーチコストに大きく影響を受ける留保 価格というものがある。この価格が需要と供給のギャップにも影響 を与えるという考え方だ。

現在多くの経済理論で、需要不足こそがデフレ経済の原因であると されている。需給ギャップの本質は何か?データだけで判断すると 需要不足しかみえない。しかし様々な市場ニーズのシフトから来る ミスマッチ等が、確かに市場では生じている。この辺りの問題ソリ ューションが今後のビジネスモデルのキーとなろう。

*ピークアウト

市場構造の変化は、そのまま都市構造の変化を要求する。市場ニー ズに応える都市は、ハイスピードでどんどん変化し、高い収益を実 現していく。それが名古屋駅前エリアである。

「新規ビジネスは新しい器を求める」これは弊社の格言である。新 しい器を土建屋の箱物成長としか見えないビジネスマンは必要ない。 市場での新しいニーズの顕在化に応えるビジネスプレーヤ、新しい 箱物で新しいビジネスを模索するプレーヤーが、時代を更新し次の 時代を作り上げていく事になろう。

ネットビジネスの概念では、アクセス量とアクセススピードが、そ の成功の重要な要素となる。ブロードバンドインフラの整備と、i Phon・iPadに象徴される末端機の開発がネット社会に革命 的な進化をもたらした。

ネットビジネスといえども、このトレンドに乗れた市場と、乗り遅 れた市場では勝敗が明確になっている。都市、あるいはリアルな経 済市場エリアをこの考え方で見てみるとより一層明確になる。

昔からの特定の市場参加者のアクセスだけに固執して、それを排他 的に独占保護してきた都市エリアは衰退し、交通インフラを革新的 に整備しなおし、市場の末端の多様な参加者を新たに取り入れ活性 化した都市エリアは大きく成長している。

めざましい成長をしている名古屋駅エリアと、停滞している栄エリ アの格差現象は、名古屋だけに見られる特異な或いは一時的な現象 ではなく、全国に見られる現在の普遍的な現象である。市場の構造 変化が要求するニーズに対応して、都市構造を進化させる事ができ るかどうか?これが都市間競争の浮沈にも影響してくると考える。

今年はまた、中央リニア新幹線の話題が多く登場した。17年後の 中央リニア新幹線の概要では、東京の起点が品川となり、名古屋が 既存の都心の名古屋駅の直下となっている。名古屋駅前エリアの東 京都市との実行距離が、革新的に進化する事になる。これは名古屋 駅前エリアの成長に過大な「期待」をもたらす。

過大な期待はバブルを生む可能性がある。しかしこの期待は、 2010年からの10年間の名古屋経済をけん引する大きな要素で あるに違いない。市場原理ではバブルは市場成長に欠かせられない。 過大な期待が生む過剰な投資を通じて市場の成長が実現していく。

もう一つ市場で顕在化した名古屋経済に足りないものは、将来のリ スクに果敢にチャレンジするリスクマネーが還流する金融システム の整備である。名古屋経済に見合った規模の地域金融機関の不在は 致命傷でもある。

これも名古屋に限った事ではなく、小泉構造改革物とで進められた 小さな地方銀行からメガバンクへの統合による弊害が、リスクに対 応できる金融機関の不在が、日本の地方を衰退させている大きな問 題となっている。

地域経済のベースとなる街づくりのシステムも、既存に追加、付加、 増設的な機能を延長させる従来の概念と、老朽化した実際のインフ ラを壊して、一から新しいインフラを作り直さなくてはならない状 況になってきた。

いろんな意味で、戦後から日本経済を作り上げてきた成長概念、ビ ジネスモデル、インフラがその機能から得られる便益の「ピークア ウト」を迎え始めたと言えよう。寿命がきたのである。 日本だけでなく、共通のプラットフォームを持って成長を目指して きた先進諸国において、人口成長、エネルギー等の資源の成長、資 源を加工する設備のスペック、ビジネスモデル、様々なイデオロギー ー、これらから生まれる便益、トータル収益、成長がピークアウト しようとしているわけだ。

その典型的な例が日本である。人口のピークアウトを迎え、制度・ インフラの老朽化による収益のピークアウトをまさに迎えようとし ている。このピークアウト後のビジョンが見えてこないのが日本売 りの本質でもある。

そして今年の後半の最も重大なポイントとして、中国、ロシア、ア メリカ等近隣関係間の安全保障問題が顕在化した事を明記しなくて はならない。いろんな論者が解説をしている。「小沢が去ってから中 国が暴走し始めた。」「2番目じゃ駄目なのか?といった時点で経済 力が凋落した。」等等。

いずれにしても、日本経済の成長力がピークアウトを迎えたのが事 実であり、「日本と仲良くすれば儲かるから、日本には安易なちょっ かいが出せない。」という時代が終わったわけだ。日本は、国の安全 保障の骨格として強い経済力を持つ事の重要性を再認識する必要が あるわけだ。

企業人であれば簡単に理解できるはずである。更なる挑戦、成長を 避け今の地位を維持したいと守りに入った時点で、その企業は没落 する。これが市場原理である。

企業の成長において全方位的な「総合ビジネス」はバブル経済です でに終わってしまった。コアのビジネスに特化して成長する事が定 石である。日本の経済も、すべての産業経済、生活、安全保障を同 時に成長する事は不可能である。

しかしどれかに特化して全体を引っ張る成長は可能である。それが コアによる成長である。それが政治的コンセンサスを意味するのか どうかはわからないが、日本の意思決定プログラムが有効に機能し ているかどうかを点検する必要があるのは確かだ。

*河村リコール問題

又今年名古屋では、河村市長のリコール問題で全国的な話題を提供 した。中央の著名な論者の多くが「リコールの前にやる事があるだ ろう。その行政努力を怠りいきなりリコールを進めるのは権利の乱 用だ。地方自治に対立は似合わない。」と批判する。

アメリカのブッシュ前大統領時代に、世界を平和にするには民主主 義を世界中に広める事以外にないと信じ中東で戦争を引き起こした。 日本も支持した。しかしその結果、解った事は、西側諸国が標榜す る民主主義ましてや市場主義だけが、絶対的に世界を平和にするの ではないという事だ。

それでも中東、アジア、アフリカ等開発途上国で確実に民主的手法 が広まっていった。しかし同時に他のイデオロギーを吸収しながら 民主主義も変わっていった。

例えば、我々が考える従来の民主主義は、選挙を行い、民意をくみ 取る。そこでは多数意見がすべてではなく、少数意見に耳を傾け政 策に反映させる事を良しとした。

しかし最近の選挙では、必ずしも明確な多数で勝者が決まるわけで はない。論争自体が多様化して、僅差しすぎて議論の白黒が不明確 な場合が多い。

前出のアメリカのブッシュ大統領は、選挙で相手候補のゴアに対し てほぼ50対50の得票数の小差で勝者となったにもかかわらず、 絶対的な勝者となり、敗者を絶対的なマイナーとして少数意見を 聞き入れるどころか、その存在すら抹殺した。

イラク、アフガン等の選挙では、勝てなければ、初めから選挙に出 ずボイコットをし、更に妨害工作をする。なぜそうなったかといえ ば、民主主義が市場原理により、例え僅差であれ勝者のみが絶対的 権力を持ち、敗者はマイナーとともに居場所をなくすからである。

数が絶対視され聞く耳を持たないなら、初めからその場に参加しな い。というのが世界的な民主主義の凋落の姿でもある。現在の民主 主義では、選挙結果は新たな戦いの始まりに過ぎない。

パッチワークに絶対的数の論理の当てはめると衝突を起こす。民主 的な選挙を新たに持ち込んだアフリカ、アジアでは、多くのケース で選挙結果そのものが新たな争いの元となっている。これが現実で ある。

総務大臣が名古屋のリコール問題を批判して「議会で議論を尽くす べきであって、リコールを発動するのはもってのほかだ」とあちら こちらでと言いまくっている。時代遅れの世界から距離を置いた地 方自治でしか通用しない考えである。

民主主義とは本来、時間をかけて稚拙な折衷案を見出す手法である。 しかしそれでは世界経済のスピードについていけない。例えば中国 などの非民主的な一党独裁国家の決定のほうがスピードがあり経済 発展している。

これに対抗するためには、民主的な手法であっても絶対勝者を生み 出しスピーディーな政策実行をする必要があるわけだ。これが世界 の最先端で起きている事である。非常に怖い状況になっている。

政策決定において、事前に議会とすり合わせをする努力を怠り、市 長がリコールをする事はもってのほかである。確かに正論である。 筆者も同感であり、対立はうんざりだ。しかし絶対的勝者でしか、 スピーディーな意思決定ができない現実に、どうのように対応する かの議論なしに批判しても説得力はない。

国会を見ると明らかだ。最後は数で押し切ってしまい、全く野党の 意見を聞こうともしない。野党も初めから政策議論をする気が全く なく、スキャンダルばかりを攻撃する。数でねじれると何も意思決 定できなくなる。名古屋を批判する前に自分たちの従来型の議会崩 壊を直視してほしい。

名古屋がリコール問題で提起している問題の本質も、従来型の意思 決定制度の疲労、ある意味での日本式議会制制度の機能のピークア ウトを問題提起していると言えよう。

効率的でないと時代変化のスピードについていけない。しかし効率 性は弱者を切り捨てる事である。この相反する問題を数で割りきっ てしまうのではなく、やはり調整が必要になる。

ある名古屋駐在のビジネスマンが「名古屋は進んでいる。」と発言し ていた。名古屋は確かに民主王国と言われ、言いも悪いも、ある意味 で日本問題点を先取りしていると見ることもできる。

しかし過ぎた効率性は、絶対的勝者VS絶対的敗者、持てる者VS 持てないもの、白VS黒等などすべてを二律背反にしてしまっている。

話は飛ぶが、一昨年のノーベル経済学賞を思い出す。市場原理によ る、持てる者と持てないものの対立ではなく、共有が社会的効用を もつ理論だ。従来の考えでは、共用とは国の財産を意味するが、と もすれば国の公共財産は、持ち主が違うだけで貧困側からみると自 分たちの共有にはなっていない。

最近よく耳にする検察審査会も、起訴決定は検察のみで、起訴する かしないかの選択肢、二律背反に陥らないように調整するニーズから 生まれたものである。

効率性を求めるあまり、二律背反に陥ってしまったことに対する新 たな選択肢を要求しているともいえよう。でなければリコールとい う、ど突きあいの死闘をしなければならない状況になるのは当然な こととなる。

もう一つ、今回のリコール問題で気になるのが学識経験者の批判であ る。マスコミの捉え方に問題があるのかもしれないが、リコールした 30万人超の市民をリテラシーの無いまるで何も分かっていない人た ちのような扱いをすることだ。

日本の安全保障は核兵器でもなく、政治力でもなく、「経済力」でし かない。これを再認識し、日本の制度、設備、人、イデオロギーの 老朽化から来る成長の「ピークアウト」から早く次のステージに移 る必要がある。そのための勇気ある「実行」の必要性が認識された 一年であったのではないでしょうか。

日本の安全保障の問題、名古屋のリコール問題は必ずしも当ニュー スレターのテーマではありません。しかし経済力、収益力の低下こ そがその本質的な問題であると考え、関連する問題としていつもな がらの筆者の多少逸脱した考え方を紹介させていただきました。

今年も一年、当ニュースレターをご利用していただきましてありが とうございました。来年の皆様のご多幸を祈念いたしまして今年の 納筆とさせていただきます。

以上

キーワード: ロングテール・インパクト 民主主義の凋落、 議会崩壊、ピークアウト、リコール、パレートの法則、安全保障  TPP 

以上

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